このページは、envedded(エンベデッド)というプロジェクトがなぜ生まれ、何を目指しているのかという「根本となる考え」について書いています。単なる製品の利点や機能の紹介ではなく、私たちが農業などの「人が暮らし、働く現場」と向き合う中で感じてきた無数の実感を言葉にしたものです。
少し長い文章になりますが、私たちの姿勢を共有させていただければ幸いです。
生きた現場での、試行錯誤と探求の「道具」と「方法」を
enveddedは自作IoTとAIを用いたデータ経営のための小さなソリューションですが、その本質は単なる効率化やテクノロジー活用ではありません。私たちが大事にしているのは、「作ることを通じて、世界により深く関わる」という姿勢です。
enveddedという名前は、environment(環境)とembedded(埋め込まれた / 根付いた)を組み合わせた造語で、「労働や生活の環境に深く根差した技術」という意味を込めています。自分の手でデバイスを作り、現場で動かす。データから仮説を立て、試行錯誤してみる。その体験を通じて、これまで気付かなかったものごとの姿かたちやプロセスに主体的に触れ、理解を深め、その先を想像出来るようになっていく。こうした営みを支え、火をくべ続けていくことがenveddedの試みになります。
私たちが提供したいのは、完成された答えではなく、現場での試行錯誤と探求のための 「道具」と「方法」です。現場の知恵と経験・テクノロジーやデータからの学びを、自分の手で組み合わせ、世界への関わりを少しずつ深めていく。enveddedはそのために、「欲しかったけれど市場に存在しなかった」道具と学びの環境を、社会や技術の発展といった「顔のない大きな言葉」のためにではなく、「生きた現場で暮らし、働く人たち」のために届けたいと考えています。
・生産者の方へ
農業の現場は今、担い手の減少や天候の変化など、さまざまなリスクがかつてないほど高まっています。そのなかで、多くの中小規模の生産者の方々は、この先どう舵を切るかの判断がますます難しくなっていると感じているのではないでしょうか。
enveddedが提案するのは、高額な設備導入による画一的な自動化ではなく、今ある現場での「こうしたい」という工夫や「もしこうだったら」という気づきを、低コストで素早くIoTシステムという形にして、そのデータを活用してみる、という新しい選択肢です。小さな気づきを仕組みに変え、改善を積み重ねる。その一歩一歩が、現場を強くし、経営を変える力になると私たちは考えています。
1.現場の条件に合わせた、自分に合った営農の形
これまで、中小規模の農業経営は、「大規模化か、現状維持か」という二択で語られることが少なくありませんでした。しかし現実的には、そのどちらも選びづらい状況もあります。enveddedは、その二択の間にある、個々の現場に合った「第三の道」を選ぶための手段を提供します。
enveddedを使えば、計測・制御といったIoTの仕組みを低コストで自作し、そこから得たデータを経営の判断材料として活用できます。大掛かりな投資をしなくても、品種や作型に合わせた環境管理や、付加価値を高くする栽培に取り組みやすくなります。また、そういった仕組みの導入によって作業負担が軽くなれば、販路開拓や経営判断に時間を充てたり、仕事以外の時間を充実させる事にもつながります。
2.試行錯誤を進めやすくし、技術資産を築く仕組み
農業の現場では、「ここを変えたい」と思っても、市販製品の機能がフィットしない、優れた製品はあるが高額で導入できない、ということがあります。また、既存のパッケージ製品は完成されているがゆえに、現場の変化に合わせた微調整や機能追加が難しいという側面もあります。それは、市販製品と、現場の要望とに食い違いが生じている状況です。この食い違いのため、やりたいことがシンプルであっても、実現を諦めてしまうこともあると思います。
enveddedは、こうした状況を解消する「シンプルなものなら自分で作って、使って、改善できる道具」です。低コストでIoTの仕組みを取り入れ、データを活用することで、これまでは出来なかった栽培方法や管理手法の工夫や改善を進めることができます。また、仕組みを自分で作れば中身が分かるため、現場の変化に応じた機能追加を行ったり、トラブル時の対応がしやすくなります。その積み重ねは現場に知識や経験として残り、次の改善の土台になります。また、大規模あるいは先進的な現場でも、enveddedを使えば、プロトタイプ製作や現場検証が手軽に行えるため、研究開発を加速させられます。
enveddedは単なるIoTプロダクトではありません。生産者の方々が編み出す工夫や知恵を、少しずつ形にしながら、「自分たちが一番やりたい農業」を実現していくための一連の仕組みです。私たちは、生産者の方々が、自分らしいスタイルで営農を行うための「道具」と「方法」を、このような形で届けていきます。
・行政機関の方へ
スマート農業の必要性が語られて久しいですが、既存の「高価なパッケージシステムの導入」は、どうしても大規模な経営体を前提としがちです。しかし、日本の農業を支える多くの現場で手を動かし続けてきたのは、複雑な地形や多様な気象条件のなかで、その土地に合った食料生産を担い続けてきた中小規模の生産者の方たちです。enveddedが提案するのは、大規模化だけを「正解」とせず、このような生産者が主体となって課題解決に取り組む、新しいスマート農業の形です。
高額な設備投資に頼るのではなく、生産者一人ひとりが、自身のノウハウと工夫を活かして低コストでIoTシステムを自作し、現場主導のデータ経営を行えるようになること。これは単なるコストダウンの手段にとどまらず、地域農業の持続性や、国の食糧システムに対して、以下の3つの点で戦略的な意味を持ち得ると考えています。
1. 地域農業の「基礎体力」となる技術力の底上げ
外部のベンダーや大規模な補助金に過度に依存するのではなく、生産者自身がシステムの仕組みを理解し、運用・改善まで主体的に行うプロセスそのものが、地域における技術リテラシーを大きく高めます。また、ベテラン農家の「勘」や「経験」が、データとAIの力によって言語化可能な技術資産として蓄積され、地域内で技術が循環・継承されることにより、人材が育つ土壌が形成されます。こうしたプロセスの積み重ねは、一過性のシステム導入では決して得られない、地域農業の基礎体力となります。また、そのような技術的・人的な地域の基礎体力の向上は、将来的に、より大規模あるいは高度なシステムを、地域に根差したかたちで育てていくケースの下地にもなりえます。
2.「第三の選択肢」による経営投資の最適化
「出口の見出しづらい現状維持」か「負担も大きい大規模化」か。こうした二者択一に悩む現場に対し、enveddedは、いまの経営サイズに合った投資で段階的な発展や試行錯誤を可能にする「第三の選択肢」を提供します。経営規模や品目を問わず、必要最小限の投資で現場改善に取り組めるようになれば、多様な担い手が農業を継続したり、少ない負担で新規就農へ踏み出せる環境が整います。この選択肢の広がりは、農業にとどまらず、地域全体のエコシステムの持続可能性向上にも繋がります。
3. 食料システムの「レジリエンス(強靭性)」の強化
私たちは、戦略的な食料システム構築を見据えたときに、大規模農業経営体と中小規模農業経営体は、対立関係ではなく補完関係になりえると考えています。 例えば、大規模経営が高い効率性と供給力を担う一方で、中小規模の現場がenveddedのようなツールを用いて地域ごとの微細な環境変化に即応し、多様な生産を支える。こういった「効率性」と「柔軟性」の重層的な両立は、気象リスクや市場変動に強く、強靭な食料システムの実現に繋がるものと考えます。
enveddedは単なるデジタルツールではなく、「地域農業の現場において、生産者や関係者が自ら考え、試し、改善し続ける」ための、具体性を伴った方法論です。enveddedは、技術導入を目的化するものではなく、現場に知見と判断力を蓄積しながら、個々の経営体や地域農業の技術的・人的な基盤を段階的に育てていくことを目指すものです。私たちは、enveddedのこのようなあり方が、「人が主体となる、地域や国の農業を支える戦略的な仕組みづくり」に寄与するものと考えています。
・教育機関の方へ
今日の教育現場では、正解のない課題に挑む「探究する力」を育てることが求められています。しかし、知識やスキルを教えるだけでなく、社会や産業の実情に即した「実践的な学び」をカリキュラムに組み込むことは、準備の負担や技術的なハードルの高さから、教育現場にとって難易度が高いのが実情だと思われます。
1. 教室と社会・産業をつなぐ学習・教育ツール
enveddedは、農業という具体的な産業を主な対象とし、自作IoTやAIを使ったデータ活用を通じて「現場で考え、試し、改善する力」を育む、学習・教育ツールとしての面を持ちます。机上や紙上で得た知識を、実際に社会・産業の場で試すには多くの準備が必要ですが、enveddedを使えば、学習者はリアルな農業現場を想定しながら自分でIoTシステムを組み、データを分析して、試行錯誤を行うことができます。それは教室での学びと、社会・産業での実践を自然につなげる取り組みになります。
2. 実践に根ざした思考様式を育む学び
実践的な学びが難しい要因の一つに、知識の分断・断片化があります。例えば教育現場では、ITテクノロジー、植物栽培、農業経営といった領域は、それぞれ独立した知識として扱われがちです。しかし、実際の産業や社会課題の現場では、これらが単独で価値を生むことはほとんどありません。なぜなら、技術や知識は常に、状況の背景・活動の目的・判断の要素・運用の現実などと結びつき、「一連の仕組み」として機能してはじめて価値を持つものだからです。
この「バラバラな知識が統合され、意味を持ったまとまり・仕組みとしてつながっていくプロセス」を体験するには、そのプロセスへと分け入っていくための的確な入口が重要になります。enveddedは、その入口を提供するものです。enveddedを用いた学習では、学習者は単に技術を学ぶだけでなく、次のような問いに取り組むことになります。
- どんな背景や目的のもとで、どのように課題に取り組むのか(前提の読解、目的と課題の理解)。
- 取り組みの中で得られたデータは、誰が・いつ・何に使うためのものなのか(判断の想定、運用の設計)。
- 現場の状況が変わったとき、仕組みをどう見直し、改善するのか(変化に合わせた対応)。
これらの問いに向き合うことで、学習者は、技術や知識の背後にある産業の構造や労働の構図といった、現場にある無数の文脈を、より実感をもって捉えていけるようになります。
enveddedが目指しているのは、「技術を学ぶこと」だけではなく、学んだ技術を、実社会の中でどのように使い、意味づけていくのかを試行錯誤するプロセスの提供です。私たちは、教育の場におけるenveddedの活用が、実践に根ざした思考様式を学習者のうちに育むための、ひとつのステップになるものと考えています。