ここでは、導入ガイドで紹介した「データとAIを使った改善の循環」の例として、これまでの経験則が通用しなかった状況に対し、データを用いたAIとの対話によって、新たな仮説(次の一手)を見つけ出した事例を紹介します。


東京都:冬季のフィンガーライムの事例

「経験則」では上手くいかなかったことに対して、データを活用して別の対応を探るプロセス

無加温のビニールハウスで鉢栽培(60L)されているフィンガーライムで、冬季に激しい落葉が発生しました。東京都でのフィンガーライム栽培は先行事例が少なく、セオリーがない状態でした。この問題に対し、経験に基づく仮説の検証と、データによる要因特定を行いました。

1. 最初の仮説と検証の失敗

当初、他県の経験者からの助言に基づき、「昼夜の温度差が大きいこと」が落葉の主因であるという仮説を立てました。そこで、側窓換気の開始温度を調整。日中の最高温度を抑えることで昼夜の温度差を縮める取り組みを行いました。しかし、温度差は小さくなったものの落葉は止まらず、むしろ葉が樹上で褐変し枯死する症状へと進行しました。

2. データによる現状の再確認

「温度差対策」が成果に結びつかなかったため、enveddedで蓄積していた環境ログと、当時の地温計の数値を改めて確認しました。そこで、判断の根拠となったのが以下の実測値です。

  • 日中の最大VPD(飽差):約 9 hPa (0.9 kPa)
  • 鉢内の表面温度(地温):約 5 〜 7℃
  • 夜間最低気温:約 3℃

これらの数値を生成AI(ChatGPT等)に提供し、フィンガーライムの生理特性と照らし合わせて状況を整理したところ、温度差以外の原因が浮上しました。

3. 情報の整理から見えた「水分需給の崩れ」

ログの解析と対話を通じて導き出された考察は、「根と葉の水分需給バランスの崩れ」でした。

  • 根の吸水制限: 鉢栽培かつ夜間低温(3℃)により、地温が 5 〜 7℃まで低下。根の吸水活性が著しく低い状態。
  • 葉の過剰な蒸散: 一方で、日中は温度を抑えるための換気によって湿度が低下し、VPDが 9 hPaまで上昇。フィンガーライムにとって過酷な蒸散要求が発生。

つまり、「昼に水を失い、夜に補給できない」状態が連日続いたことが、樹体への極度な乾燥ストレスとなり、落葉や葉枯れを引き起こしていたという結論に達しました。

4. 地域差の特定と「消去法」による納得

同様の管理(無加温・日中20℃)で落葉が起きていない他地域(長野県等)の事例を再調査したところ、そこでは外気温が低いために冬季は「ほぼ無換気・締め切り管理」が行われていました。締め切り管理によって湿度が極めて高く維持され、日中のVPDがほぼゼロに近い状態で保たれていたことが、葉を健全に保つ要因でした。

一方で、今回の栽培拠点である東京周辺では、冬の日中でもある程度の外気温上昇があり、無換気のままではハウス内の温度が上がりすぎてしまいます。そのため、温度を下げるために側窓を開ける「換気」が必要となりますが、冬の乾燥した外気が流れ込むことで、ハウス内の湿度が急激に奪われる結果となっていました。

「温度差対策」として行った換気が、結果としてハウス内の乾燥を招き、問題を悪化させていた。この消去法による要因整理は、環境データのログと、AIとの対話を通じた仮説構築によって大きく進められました。

5. 事実に基づいた次の一手(検証内容)

現在は、データ経営のサイクルに基づき、昼間のVPDを 6 hPa以下 に抑制することを目的とした、時間帯別の換気スケジュールを適用し、経過を観察しています。

事例のまとめ

この事例では「温度差が原因」という経験則が外れたとき、データという客観的な指標があったことで、速やかに別の要因(VPDと地温の関係)へと視点を切り替え、植物の生理に基づいた納得感のある環境調整へ繋げることができました。